第3章 ハイエンドコンピューティング研究開発の動向
近山 隆 委員
1. はじめに
本稿では米国の政府機関であるInteragency Working Group for Information Technology Research and Development (ITRD) 傘下のSoftware Design and Productivity (SDP) Coordinating Groupの活動の方向性を定めるため、2001年8月18日〜19日にArlingtonにおいて行なわれた“Planning Workshop on New Visions for Software Design and Productivity”について紹介する。
2. 活動の枠組と経緯
ITRDの活動の発端は1991年に設置されたPresident‘s Information Technology Advisory Committee(PITAC)に遡る。PITACは全米の大学・研究所・情報産業の有識者から構成され、大統領・国会・連邦政府機関に対しITにおける米国の優越を保つ方法を直接答申する、他の政府諸組織とは独立した調査機関である。
PITACは1999年2月に、現状を分析した調査結果として、以下のような事項を報告している。
その上でPITACは「連邦政府はソフトウェアの基礎研究にabsolute priorityを与えるべきである」と結論付けており、より具体的には以下のような政策の推進を提言しており、これがITRDの活動の根拠となっている。
3. Planning Workshop
Arlingtonで行なわれたPlanning Workshopは、PITACの答申に沿った研究開発についてより具体的な方向を探るためのもので、大学、NSF, DARPA, DOE, 産業界から、第一線の研究者を集めて開催された。
ワークショップは二日間に亘ったが、第一日は導入セッションに続き4領域についてのパネル、第二日は朝に各パネルに対する課題が示された後、パネルごとに分かれての検討が行なわれ、昼にはその結果を報告する、という日程であった。各パネルの領域は以下の通りである。
3.1 導入セッションと各パネルへの課題
導入セッションでは上述の背景経緯説明と共に、主要な研究領域として以下のものが示された。
その上で、検討すべき主要なポイントとして、下記が示された。
そして、「真の障壁と挑戦」として「無限の複雑性を知的に制御すること」をあげている。つまり、現実のシステムは、
ということを覚悟した上での対処法を求めている。
各パネルへの要請として、Software Design and Productivity (SDP)の研究計画を策定することを求め、そこではこの「真の問題」への挑戦を、遠い将来の理想的への道を探るのではなく「明日の問題」を解くことを求めている。
第一日はこの導入セッションの後に4パネルが開かれ、参加者は各々の所信を発表した。その内容は参加者の多様な研究領域を反映した多岐に渡るものであるが、ここでは個別には立ち入らないこととする。
第二日にはパネルごとにその検討結果のとりまとめを行なったが、それに先立ってとりまとめにおいて留意してほしい事項として、以下が掲げられている。
モ要素技術? 高度な抽象化? 利用者教育?
モオープンSW? 開発プロセスの自動化?
モ新たな開発アプローチ?
その上で、連邦予算を5億ドル投入すべき研究方向を検討するよう求めている。
以下では、二日目昼のセッションで、各パネルの結論として提示された内容について概説する。
3.2 ソフトウェア研究の将来
「ソフトウェア研究の将来」についてのパネルでは、まず現状の分析として、以下をあげている。
その上で、以下の目標を掲げた研究をすべきであるとしている。
特に注目すべきは以下の領域であるとする。
そして、この基礎となる科学として、以下をあげる。
モ人間の認知・記憶に関する知見をソフトウェア設計に応用
モソフトウェアと人間の適切な役割分担
鍵となるポイントは以下であるとする。
モ「プログラム」の再定義
モ「プログラマ」の再定義: 開業医などと同様の専門家として
モ軽い形式的枠組
モ並行性・耐故障性・安全性などのモデル
モ「価値」に基礎を置いたデザイン
モ分散オープンソースウェアテスト方式