H10−4 わが国における政府支援プロジェクトの知的財産権の扱い

  1. 過去の国家プロジェクトにおけるIPRの扱いの整理とわが国の知的財産権の扱いに関するヒアリング調査を実施。
  2. ヒアリングの回答者は、プロジェクトの委託組織の責任者、プロジェクトの委託組織の担当者、元国立研究所の研究者で現大学教授、元メーカ研究者で現大学教授、メーカ研究者、メーカ知的財産権担当セクション責任者、ソフトウェアハウス役員、ベンチャー企業経営者。
  3. 各回答者の見解は、大まかに以下の6つの立場に整理できる。こうした錯綜した状況がIPR問題の込み入った事情を反映していると考えるべきであろう。
@現状肯定派

成果の普及に際して、現状のIPR制度に大きな問題は無い、あるいは少なくとも現時点で制度に関して困惑するような事態には遭遇していないとする見方。例えば事務手続きの煩雑さなどの点でIPR制度が完璧ではないにせよ、その問題を具体的に強く指摘できる程に事業化の例がまだ多くはないという認識をもっている。この主張はプロジェクト実施側の回答者に多い。

A成果全面公開派

国のプロジェクトの成果は基本的には100%公開すべきであり、それによって成果の普及が最も促進されるとの主張である。また、国のプロジェクトの契約形態については、委託や請負に替わる研究開発に適したより自由な形式の確立が必要であるとし、その際に契約上のしばりを少なくすることによって生じ得る契約不履行者の存在も必要悪として認めた制度の検討が必須と考えている。

B国・企業独立路線推進派

国のプロジェクトに関連して特に大きなIPRの問題は、既に受託者が事前に所有しているノウハウやソフトウェアと国の成果の切り分けの問題であると考えている。問題の一端に国のプロジェクトが企業の製品開発に近すぎる分野を設定していることがあり、国は企業活動から離れたところにその研究開発分野を設定すべきと主張している。インフラ整備や新技術に関する社会的実験、ニーズ顕在化のための社会的プロジェクトなどが研究分野の具体例の一つである。

C企業優先使用派

国の費用を使う研究開発とはいえ、実際にアイデアを出して研究開発を行うのは受託側企業である。したがって、受託側にその権利が保証されないのは極めて不自然であり、最低限の権利は共有としなければ、プロジェクトには参画できないと主張している。この主張の背後には、研究開発そのものは受託側のコントロールのもとで実施されるべきであること、各種事務手続きは研究開発の進行を第一に考えて簡素化されるべきことなどの主張もあり、残された課題は大きい。

D成果普及懐疑派

国のプロジェクトの成果は企業の活動とは直接結びつかないとの見解である。この意見に従うとIPRは大きな意味を持たないことになる。この主張の論拠にはいくつかのパターンがある。

(1)成果を普及させようにもその市場が見えない。
ソフトウェア成果を生かして事業化する際に、最も自然な形はパッケージソフトの形で製品化することである。しかし、日本のパッケージソフトウェアの市場は欧米に比較すると相対的に低調・未発達であり、事業意欲を持てないと考えている。

(2)国のプロジェクトでは、当初から事業化の意欲をもっていない。
従来、国のプロジェクトでは、自社内で抱えているテーマのうち事業化の可能性が相当低いものを対象にしているため、当初から事業化の意欲を持っていない。事業化の可能性が見えているテーマは、自社内の予算で自らの全面的なコントロールのもとで研究開発を実施している。

(3)基礎的な研究開発ではテーマの将来性の判断が難しく、事業化は困難。
過去に国のプロジェクトとして行った研究が、結果的に産業としては方向違いだったことなどを挙げ、基礎研究の成果を事業化することの難しさを指摘している。

E脱IPR派

IPRは成果普及のための一要素ではあるものの、現時点での最重要課題ではないと考えている。ベンチャーにとって最大の問題は顧客の確保である。自らが開発した技術に関する需要家とのマッチングの場を設けることが本質的な課題であり、そのための支援の必要性を訴えている。販売機会の増大、チャネルの確保が喫緊の課題であり、IPRの問題は二の次、もしくは、まだ問題がそこまで達していないという見解である。