(1)米国政府最高レベル(大統領)の政策理念
「政府の助成金や調達契約に基づいて作成されたソフトウエア、工学図面、ならびに技術データに関しては、その諸権利を委託先の民間主体(Contractors)に保有させるよう、連邦調達局の統一的政策として、各省庁の長は十分に認識し、互いに協力されたい。」
これは、1987年、レーガン政権によって出された大統領令第12591号からの抜粋である。しかし、この大統領令を以ってただちに、「米国は、政府が支援するソフト開発に伴う諸権利をすべて民間のContractorsに与えている」と判断するのは早計である。現実には省庁間の食い違いや議会を巻き込んだ軋轢が相当にあり、政府の政策理念を浸透させるためにレーガン政権は同様の趣旨の指令や声明を83、86、87年と繰り返し出すことになった、というのが正確な理解である。
(2)問題意識への回答
Q1: 米国政府における原則公開の開放的IP政策の歴史は、米国のソフトウエア産業の基盤生成に
大きく寄与してきたのではないか?
- 確かに、米国の知的財産権(IP)ポリシーは原則公開の開放的なものといえる。
- 政府職員やWork for hireにより開発されたソフトウエアは、Public Domainに置かれる。
- 政府は、一般的にソースコード納入を要求しない。
- 一方で、1980年以降の法整備(Bayh-Dole Act、Steven-Wydler Act等)により、成果ソフトウエアの排他的IPRを民間へ与えていこうという方向性も持っている。
- 政府支援プロジェクトの成果は、基本的アルゴリズムやプロトコル、サブコンポーネントの分野で産業界に大いに貢献してきた。しかし、政府の開放的IPポリシーが産業界へのすべての貢献を可能にしたとは言いきれない。むしろ、政府支援プロジェクトで育った最先端技術者が民間へ移動することで、間接的に知的資産が市場へ移転し、商業的成功に結びついている。
Q2: 米国政府は政府支援研究開発プロジェクトの成果物として、ソースコードの納入を要求するのか?
- 米国政府は一般的にソースコードの納入には柔軟な姿勢であり、多くの場合、その開示を要求しない。
- 原則としては、政府はソースコードを要求できる権利を持っている。
- しかし、FOIA:Freedom of Information Act(情報公開法)の下で、政府は要求されれば国防上問題ない限り、全てのデータを開示しなければならない。このため、もし政府がソースコードを受け取った場合、それが第三者の手に渡る可能性が出てくる。
- 上記のようなケースでは、民間Contractorsの著作権は全く剥奪されたに等しい状態となってしまう。そのため、政府は多くの場合、将来政府自身か他のContractorsの手で修正の必要性がない限り、ソースコードを要求しない。要求する場合はきわめて実務的理由からである。